帰ってきた10年ものの扇風機
2026.07.16
帰ってきた10年ものの扇風機
(風鈴、すだれ、扇風機、団扇の遠い夏の日)
梅雨は明けたのでしょうか。
7月の半ばだというのに、
もう猛暑日が連日当たり前のようになってきました。
とりあえず仕事場ではエアコンをフル稼働させて暑さをしのいでいますが、
外出すると、室内と外の温度差に体がついていきません。
洋服は汗だく、夕暮れになると、気だるさで動きたくなくなります。
日中の街に目を向けると、温暖化のせいでしょうか、
昔の夏とはずいぶん違った風景が広がっています。
団扇や扇子を手にした人は少なくなり、代わりに目立つのは、ハンディタイプの小さな扇風機。
作業着に扇風機が付いている人も、あちらこちらで見かけます。
昭和30年代には、ちょっと考えられなかった光景です。
そうそう、日傘だけはまだまだ現役です。
むしろ以前より増えているようにも感じます。
子どもの頃の記憶をたどると、
母の実家は浅草にほど近い、二階建ての木造住宅でした。
密集した街並みの中にありながら、南側には十畳ほどの庭がありました。
大きな木製の掃き出し窓を開けると、そこには縁台。
夏に遊びに行くと、その開口部には竹製の簾がかかっていて、
風鈴が風の爽やかな話し声を運んできました。
もちろん、室内の主役は扇風機です。
多分、皆さんも一度はやったことがあると思います。
扇風機の前で、
「あ~~」と声を出して、自分の声が揺れるのを面白がる、あれです。
今思えば、たいした遊びではありません。
でも、あの頃はそれで十分楽しかった。
路地裏に目を移すと、打ち水をする家がそこここにありました。
水を撒いたあとの土やアスファルトの匂いと少しだけひんやりする空気。
それもまた、夏の風情を盛り上げていました。
昭和40年代になると、各家庭で室内にエアコンを見かけるようになりました。
最初に見なくなったのは、風鈴だったように思います。
窓を開けていれば、せっかくの冷気が外へ逃げてしまいます。
どこの家も窓を閉め切るようになっていったのは、この頃からではないでしょうか。
木製の窓枠は、気密性の高いアルミサッシへ。
簾は、少しずつカーテンへ。
室内の気密性を高め、冬は暖かく、夏は涼しく、効率よく暮らす方向へ、
家の構造も変わってきたように思います。
かろうじて、今も室内に残っている夏の道具。
それが扇風機なのかもしれません。
世の中の快適さを求める勢いは、どんどん増しています。
断熱性。
遮熱性。
省エネ性能。
もちろん、どれも大切です。
国を挙げて補助金による生活環境の改善も進められています。
これも、時代なのでしょう。
ところで本日、仕事を終えて帰宅すると、
数日前から妻に頼んでいた10年ものの扇風機が、リビングに鎮座していました。
冬の間にかぶったほこりを払われ、少しよれた電気コードもまっすぐに伸ばされ、
すっかり出番を待つ姿です。
「これから10月後半まで、よろしくね」
そんな気持ちで電源を入れ、動作確認も無事完了。

夕飯時、できるだけエアコンを止め、窓を開ける。
少し汗だくになりながら、ノンアルコールビールを一口。
ああ、今年もこの季節が来たぞ。
風呂上がりまではエアコンをつけず、「暑い、暑い」と言いながら、
扇風機とは反対側の窓から時折吹き込む風を感じる。
これが日本の夏だよな、と枝豆をあてに、また一口。
頭ではわかっています。
断熱性も、遮熱性も、省エネも大事です。
快適な夏は涼しく、冬は暖かい省エネ住宅を――
リフォーム業者紹介センターの社長としては、
そう声高に言わなければいけない立場です。
それなのに、こうして扇風機の前で夏の風情を楽しんでいる。
社長失格ですかね(笑)。
本当は、社会全体でエネルギー消費を抑えながら、
温暖化のない暮らしを取り戻していくことが大事なのでしょう。
でも、便利さや快適さと引き換えに、少しずつ失ってきた風情もある。
なんだか矛盾していますね(笑)。
妻に「いつまでダラダラ食べてるの」と注意される前に、
そろそろ今夜の夏のノスタルジータイムは切り上げることにします。
この後は、DVDで『サマーウォーズ』でも観ましょうか。
ああ、昔の夏.....。




